2023.05.10

歩くだけで地球を守る。脱炭素サービス。

歩くだけで地球を守る。脱炭素サービス。

日本では2025年度から省エネ基準適合義務化が実施される。このことに対する認知度は9割、実際に何らかの取り組みを行っている企業は3割。残りの6割の「行動変容」が日本の脱炭素化の行く末を握っている、と話すのは「ひとの移動で脱炭素を実現」を謳うスマホアプリ「SPOBY」開発者の夏目恭行氏だ。

取り組まなけれないけない事実は漠然とわかってはいる、しかし具体的には、、?

そんな大半が抱えるもやもやを華麗なビジネスに昇華し、各メディア・自治体の注目を浴びる同氏に迫る。

夏目恭行さんのプロフィール

2000年関西学院大総合政策学部卒業後、株式会社テレパックに入社。ディレクターとしてテレビ番組の制作に従事する。2006年株式会社コナミデジタルエンタテインメントに入社しゲーム制作に従事。プロデューサーとしてゲームタイトルの開発運営を歴任。2013年 株式会社コナミスポーツ&ライフへ出向。ヘルスケアビジネスの創出に従事した後、2017年に株式会社CUVEYESを設立する。

地方最大級の起業家イベント「TGA Festival 2022」で「KDDI賞」を受賞

自家用車のCO2排出量と活動量低下

歩行習慣を増進させ社会問題を解決する。それがスマホアプリSPOBYのコンセプトである。

現在日本の乗り物移動によるCO2排出量の1割程度を自家用車が占めている。しかし、自家用車移動の大半が5km以下であり、徒歩や自転車に代替可能である。また、年々日本人の活動量の低下、またそれに伴う健康問題は深刻な課題となっている。

この2つの社会問題に着目した夏目氏は「脱炭素量を可視化する」画期的なスマホアプリを開発した。

脱炭素×健康増進×地域経済活性化

SPOBYでは自分が自動車の代わりに歩いたり、自転車に乗ったことによる脱炭素量を簡単に確認することができる。また、最近では生ごみについても土の中で分解した際どれだけのCO2排出を削減できたか表示する機能も追加されたようだ。

また、単に「脱炭素・健康増進」といったいわば綺麗ごとだけをモチベーションに歩行への代替を促すのではなく、アプリの使用状況に応じて様々な店舗の特典を享受できる、という点が人気に拍車をかけている。

SPOBYの他にはない強みは大手企業だけでなく、地域住民の動線上にあるような地元の店舗も多く参加している点だという。地元店舗側としても、地域住民に宣伝することができる、というメリットがありこの関係性が成り立っているそうだ。

また、SPOBYには人の移動の情報が細かく落ちるので、その膨大なデータをもとにより最適化されたまちづくりにも寄与している。

つまり、脱炭素・健康増進に加えて更にビジネスの発展にも寄与できる、という要素も加わり、各自治体・企業からすると放っておけない魅力的な存在として脚光を浴びることは半ば必然だった。

社会プロジェクトも外貨獲得手段になるべき、なれる時代

夏目氏によれば「社会プロジェクトも外貨を稼ぐ手段になっていくべき」なのだそう。国家の予算をひたすら削り、社会問題解決のため負担していく形は「サステイナブル」ではない。それよりも、社会プロジェクトが外貨獲得の手段として市場を広げていくことが今の時代に求められているそうだ。

これだけ聞くと夢物語のように聞こえるが、まったくそれが夢想などではないリアルな事情もある。

市民が汗水たらして取り組む社会プロジェクトを支援することは企業ステータスにつながると同時に税控除にもなるという案外大きなおまけがついてくるのだ。この市民と企業双方にとってメリットのある図式によって実際、1億円ほどの資本を獲得した自治体もあるそう。

国との連携に足踏みしている暇はない

社会問題の解決、特に脱炭素に関しては官民二人三脚が不可欠であり、国もぜひ一緒に手を組みたいという風潮だという。はじめは健康増進のみが目的で事業を立ち上げたものの、歩くことによって乗り物利用が格段に減ること、また今日の社会問題解決に向けて国側の企業提供の欲求が高まっている風潮を敏感に感じ取った夏目氏は「厚かましく」、環境省、内閣府と密にコンタクトを取り、SPOBYを完成させていった。同氏は「脱炭素は市場として確立していかないといけない。2025年まで足踏みしている暇はない。」と語る。

世に求められているものであればメディアは放っておかない

SPOBYはNHK、テレビ朝日などをはじめとする各大手メディアに多く取り扱われている。しかし、これといったメディア戦略はしておらず、強いて言えば事業自体が最大のメディアを引き付ける要素であった。夏目氏は「世に求められていて、かつ分かりやすいプロダクトであればメディアはほっとかない。」と謙遜しながらも強気に語る。しかし、現状からみてもそれが答えなのだろう。

しかし、今年度は各テレビ局などが行っている健康WEEKといったイベントトレンドに合わせて戦略的に打ち出していくという、意識的計画も持っているそうだ。

仙台市に健康と脱炭素を。SPOBY

人材会社と医療系との提携

冒頭にも述べた通り今必要なのは、いまだ行動できずにいる6割の行動変容。そのために働きかけるべきは人材会社系と夏目氏は考えている。実際、従業員の健康増進などの取り組みのため人事を握る会社との話をする機会や資本提携。また、自治体や会社からの問い合わせも多いそうだ。

また、予防医療にもSPOBYを役立てていきたいと同氏は考えている。SPOBYが提供する行動変容のデータと健康検診のデータとのかけ合わせにより1次予防、2次予防を充実させていくことを企図しているそうだ。

「世界から求められるサステイナブルなビジネス」

意外にも夏目氏は現職につく以前、大手のゲーム会社のプロデューサーを努めていた。しかし、当時からガチャの課金でお金をむしりとるのではなく社会問題を解決しながらビジネスがしたいという思いが根底にあり、それが現在につながっているそうだ。

ベンチャーは唯一性、外部に求められる要素がなければいけない。どこにもない価値をスピーディに提供することが大切、と同氏は語る。まずは日々変化する社会問題に柔軟に対応しその課題を解決する糸口を探る。その時初めて、「世界から求められるサステイナブルなビジネス」が生まれるのだ。

取材動画

文章校構成:佐々木愛子

聞き手:戸村光・