2023.07.05

それ、AIがやります。──元警備会社社長とAIの融合がもたらす変革とは?

それ、AIがやります。──元警備会社社長とAIの融合がもたらす変革とは?

2022年10月31日、ハロウィーンの日に発生した韓国の梨泰院(イテウォン)雑踏事件は、連日メディアに取り上げられ、我々日本人にも大きなショックを与えた。

159人もの尊い命が犠牲になったこの事件。「警察や警備の不手際による“人災”ではないか」と世間では警備に非難の声が上がったが、どうすれば事件を未然に防ぐことができたのだろう。

もしも、その警備に最新のAI技術が活かされていたならば、どうであっただろうか?

今回のHUNTER CITYでは、AIの映像解析技術によって従来の警備業の改革を目指す、KB-eye株式会社 代表取締役 秋山一也氏を独占取材した。

警備業界に希望の光を

深刻なコロナ禍から日常の活発さを取り戻しつつある日本で、ますます需要が高まる警備業務。しかし、その需要に反して現在の警備業界は、人材の不足と高齢化に喘いでいるのが現実である。

20年間、社長として警備会社を経営していた秋山氏は、こういった警備業の抱える将来の不安性に漠然と問題意識を持っており、危機感を抱いていた。そのキャリアから、秋山氏は警備業については誰よりも精通していると自負した上で、同社の起業を決意した理由を次のように語る。

「誰かがこの問題に切り込んでいかなければならない。それなら自分がやるしかない。(他の誰にも)任せられないなと思った。」

そうして地元の後輩であり、経営者研修で知り合った橘田氏(※KB-eye 共同設立者であり、AI技術に精通していた)とタッグを組み、従来の警備の改革に向けて挑戦の一歩を踏み出した。

革命家ならではの壁とは?

KB-eyeの主な売り込み先は警備会社。そしてその製品は、片側交互通行の交通誘導警備・イベントの雑踏警備・駐車場警備など(※これらを一般的には『2号警備』という)の業務において、高度なAIの活用によって人手不足を補うだけでなく、現場の安全性向上をも可能にするものである。全く新たな次元の警備を想定した画期的なこの事業アイデアに、勝ち筋が見込めないはずがなかった。

しかし、新たな挑戦にはいつでも試練と苦難がつきものである。KB-eyeも、もちろん例外ではなく、設立直後の2018年,2019年頃はなかなか顧客に相手にされなかった、と秋山氏は言う。

「開発した製品のコンセプト自体が認められていても、『そうはいってもね〜…』という反応が多く、製品の導入はおろか実験の場すら提供してもらえなかった。」

それもそのはず、前例のない新たな技術はなかなか受け入れてもらいにくい。製品モデルが常識を覆すほど、画期的すぎるがゆえだろう。

こういった向かい風の中、それでもKB-eyeは『顧客に寄り添い、サポートし続けながら長期的な関係を築いていく』という会社方針を掲げながら、全国をまわってデモンストレーションを重ね、未来の業界のビジョンを語って歩いた。粘り強い努力が実を結び、今では全国各地から問い合わせが届くほどに成長し、著名なイベントの警備にも利用されるようになったという。

そうして躍進を遂げたKB-eyeの挑戦は新たなフェーズに進んでいく。

KB-eyeのAI交通誘導システム(片側交互通行時)

日本国民の意識改革を目指して

秋山氏の次なる目標は、“社会におけるAI警備の認知を広めること”であり、目指すは日本人全体の警備に対するパラダイムシフト(常識の変化)だ。

ここで1つ、例を挙げよう。現在は電車を利用する際に自動改札機を通るのが当たり前の世の中だが、20年前は駅員が1枚1枚、乗客の切符を切っていた。Z世代の中にはその事実を知らないという人も少数ではなく、これは一種のパラダイムシフトといえる。この例を取り上げて、秋山氏は以下のように語った。

「いつか、僕らの(片側交互通行の)AI誘導システムも、『あれって昔は人(警備員)の仕事だったらしいよ』と言われたい。それが僕らのゴールです。」

また、こういった日本人全体の意識改革には、もちろん政府や行政の協力も不可欠である。そこで、同じ志を持つ約40社の警備会社と共に『全国交通誘導DX推進協会』を設立。行政への働きかけを強めており、現在ようやく行政側が、上述した警備業界の問題点を認識し始めた段階であるという。

最後に、秋山氏に本記事の読者に伝えたいことを尋ねた。

「AIの映像解析の力を使って地域の安全を守るという仕事に興味があれば、ぜひ一緒にやりましょう。」

 警備業界全体が高齢化していることを踏まえて、これからは若い世代が活躍できる場所を提供していきたいそうだ。

「これからどんどん新しい警備モデルが普及していくと思うが、もしそれ(AI警備システム)を見たら世の中のいろんなものが“人からAIコンピューターに変化している”ことを実感してほしい。」

KB-eyeのAI技術がいち早く我々の住む町に届くことを、待ち望んでやまない。

日本がいつか誇れる安全先進国になるまで、秋山氏の挑戦は続いていく。

文章構成:伊藤香月

聞き手:戸村光・伊藤香月